「君の名」の英訳にみえた、翻訳者に必要とされる3つの力

日本で大ヒットした「君の名は」ですが、Your nameというタイトルで英語吹き替え版がつくられているのはご存知でしょうか。その英訳があまりにも素晴らしかったので、この記事では「君の名は」に出てきた英訳をピックアップしながら翻訳者がもつ3つの力について解説していきます。
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君の名は (your name)にみえる翻訳者の技
実はアニメには、ジブリを含め吹き替え版 (Dubbed) が作成されているものが結構あるのです。そしてどれも細かなところまで英訳されているので、英語を勉強している人にとっては「この日本語を英語でどう表現するか」という点でとても勉強になるのです。
みなさんだったら、この日本文をどう訳しますか?
星が降ったあの日から
それはまるで
夢の景色のように
ただひたすらに美しかった
(君の名はPVより引用)
これは、君の名はのPVで使われた言葉です。シンプルに考えると一番最後のフレーズは「It was really beautiful like a dream.」なんて訳が一瞬思い浮かびますが、それではあの言葉もでないような美しさは表現できていないのです。
それでは、実際の英語版「Your name」の訳をみてみましょう。
星が降ったあの日から Ever since that day, the day a star fell…
それはまるで It was almost like
夢の景色のように Like seeing something out of a dream
ただひたすらに美しかった Nothing more or less. a breathtaking view
(Your nameより抜粋 筆者ディクテーション 引用元: https://www.youtube.com/watch?v=VgixlvX28-g)
この英訳では「ただひたすらに美しかった」という一文を、「Nothing more or less.それ以上でも、以下でもない」「A breathtaking view息を飲むほどの景色」と表現しています。
ここから見える、翻訳者に必要な力とは
- まるで夢のように美しい、と
- 息を飲むほど、これ以上ないほど美しい景色
では全く受ける印象が違いませんか?直訳でBeautifulを使うのではなく、A breathtaking viewと表現することで、綺麗なんて言葉では言い表せない情景が見えてくる のです。
ここに翻訳者の力が秘められています。
そう、翻訳者に求められるのは
- ① 英文・日本文を正確に読み解く力
- ② 事象を概念的に捉える力
- ③ それを言語化して(わかりやすく)人に伝える力 です。
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翻訳者が見ているのは、「物事の核」
頭に残るのって、何気ないときの一言二言だったりするのです。そして、それが誰かの人生を変えてしまうことがある。だからこそ、翻訳者は言葉に繊細になるのです。
例えば、ホテルや旅行でお客様へ出す決まり文句「Dear Highly valued customers」。直訳をすると、「とても価値のあるお客様へ」ですが、それだとやっぱり何か物足りない感じがするのです。
本来の意味を伝えながら、自然な文書にするには、少しだけ捻りが必要です。結局ここで伝えたいこと(文章の核)は、敬意を込めてお客様へ文書をお届けしたい、ということです。そういうのも全てひっくるめて「Highly valued customers(大切なお客様へ)」と訳したりします。
翻訳は楽な仕事ではない
通訳と比べて、地味に聞こえる翻訳だが…
勘違いされがちですが、通訳と翻訳はまったく違うお仕事です。
通訳で必要なのは、「前提を頭に置きながら、瞬時に、物事の核を読み取り、相手にわかりやすく伝える力」。反して翻訳は、答えのないパズルを解き続けるようなものです。文章を読み解いては並べ替え、背景の意図を読み取り、違う言語に組みかえそこに息を吹き込む仕事です。
私も携わる前は、「翻訳は自分のペースで進められる分楽なのでは」と思っていたのですが、この記事で述べてきたようにけして楽な仕事ではないのです。ありません。そして比べられるものでもありません。どちらにも違った楽しさがあり、大変さがあるのです。(英語ができるから翻訳お願い、とポンと英文契約書を渡したり買い叩いたりはやめていただきたい… )
重い翻訳が終わると、抜け殻になることも
30ページくらいの契約書(それも1ページに文字がびっしり)のものを翻訳すると、自分の中から全ての言葉と知識を絞りだすので、しばらくは抜け殻状態になります。それこそ本を読みふけって、狂ったようにインプットを続けることも。バランスを取りたいのか、他人の日本語文書が読みたくて仕方なくなるのですね。
誰にでもできる仕事ではないからこそ
正直文字に埋もれる生活が本当に好きかっていうと、なんか違う気もします。やりたいからやっているわけではないのです。「自分が好きなこと・やりたいこと」はぶれますが、「出来ること」はぶれません。妙に神経を尖らせることもなければ、いきなり嫌いになることもないのです。
契約書レベルになると難易度も高いですし、時間も相当にかかります。それでも引き受け続けているのは、誰にでも出来る仕事じゃないからこそ、自分がその仕事を請け負うことで誰かの助けになるということが嬉しいからかもしれません。
まとめ
というわけで、この記事でご紹介した翻訳者が持つ3つの力はこちらです。
- 英語・日本語両方の文章を正確に読み解く力
- 事象を三次元的に概念的に捉える力
- それらを言葉にして(わかりやすく) アウトプットする力
もちろんGoogle翻訳先生などのAIも、下訳として使わせていただくこともありますが、最終的には全文を自分で公正します。地味にもみえますがその中にいくつものこだわりや、技がこめられているのですね。これを機に翻訳って面白そうだな、わたしも英語を勉強してみようかな、という方が増えたら嬉しいです。
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